米粒のような独り言

アラサーオタク女性の独り言です。文章とお絵描きが好きです。おにぎりボウズくんというオリジナルキャラクターを描いて楽しんでいます。※無断転載などご遠慮ください。

光が消えた瞬間

 

犬の呼吸が止まった。その瞬間をみた。

もうだめかもしれないとうっすら予感した24日、その通りに犬が旅立った。

少しでも犬の傍にいたかったので、犬の目の前で身支度をしていると、ハアハアと呼吸が速まって次の瞬間、呼吸で体を揺らす犬の動きが止まった。

ねえ、待ってよ。いかないでよ。嘘でしょ。だってこの前まであんなに元気だったでしょ。今日も病院行くんだよ、そうすれば良くなるんだよ。ねえ、ねえ。そう問いかけても犬の瞳は一点を見つめて動かない。

またこれか。そう思った。ニ年前に二匹いた犬が一匹で旅立って、一年前に母が逝き、次はこの子か。もう泣くのは嫌だった。身体中全てが痛い。それなのに止めどなく涙が溢れて苦しくなった。

その日、父は泊まり込みの仕事でいなかったので、父に電話したあと葬儀屋に電話した。葬儀屋は「迎えに行きましょうか?」と言ってくれたが、自分で連れていくと伝えた。犬は車が好きだったから、最後に車に乗せたかった。

私はどうしても行かなければならない仕事があったので「私はプロだ。絶対に泣くな」と言い聞かせて、そして犬の周りに保冷剤を置いてから職場に向かった。自分のことをプロだなんて思ったことはないが、そうしないと立てなかった。

化粧もマスクも便利だ。全て隠れる。

仕事を終えて帰る時間になると、ドクドクと心臓が高鳴って落ち着かなくなった。現実を直視する時間が近付いていたからだと思う。

家に着いて犬を見て、本当に死んじゃったのだと思って、そのまま声を上げて泣き崩れた。冷たくなった犬の体に触れて、母のことを思い出した。なんでこんなに冷たく硬くなるのだろう。温もりも柔らかさも生きている証なのだと、どこか冷静にそう思った。もうこんなのは嫌だ。

犬の体にシーツを巻き付けて持ち上げると、思ったより軽かった。「重いな~」と文句を言いながら犬を抱き上げていたのが遠い昔のようだ。後部座席に犬を乗せて、車を走り出す。助手席ではしゃいでいた犬はもういない。

葬儀屋に着いて受付をしていると、顔にかける白い布にメッセージを書いてくださいと言われて、我慢していた涙がまた溢れた。メッセージなんて書けない。なにも言葉が浮かんでこない。思えば二年前にもそう思った気がする。

25日は友引なので、26日に火葬すると言っていた。その前に線香を上げてくださいと言うので、泣きながら線香を受け取った。台に乗せられた犬の体を撫でながら「急だったんです。病院に連れていったのになにもわからなくて」とボソボソ呟いた。受付の女性も泣いていた。

家に帰って静かになったひとりの家で泣きじゃくった。どこかの家から子供の泣き声が聞こえる。私の泣き声も聞こえているのかなと、少し気まずくなった。

25日の朝、気だるい体を起こして身支度を済ませる。外に出て車に乗り込むと、前の家の窓から小さい子供と母親がこちらを見ていた。どうしたらいいかわからなかったので目線をそらしたが、子供はずっとこちらを見ている。控えめに手を振ると子供はにこにこしながら手を振り返してくれた。昨日の泣き声はこの子だろうな。

その日は父と兄夫婦が犬にお別れをすると言っていた。私は一日仕事だったので、淡々と仕事をした。誰ともなにも話したくなかったし、なにも考えたくなかった。気を抜くとすぐに涙が出てくる。寂しくて悔しくてどうしたらいいかわからない。父と兄に八つ当たりしてしまった。罪悪感が残った。

火葬当日、仕事は休みだった。先月スケジュールを組むときに、有給が余っていたので何気なく休みにしていたのだ。まさか犬の火葬日になるなんて思っていなかった。

朝から雨が降っていた。今日は雨だから散歩に行けないな、ああ、もう散歩に行かなくていいんだと思ったら泣けてきた。起きても仕方ないので、うさぎの世話をしてからまた寝た。なにもやる気が起きない。

火葬前にお別れをしたかったので、ひとりで葬儀屋に行った。葬儀屋は近所にある。向かう途中、犬と通った道ばかりでまた苦しくなった。

横たわる犬は亡くなったときと変わらなくて、本当にもう動かないんだと思った。泣きながら頬を撫でる。ありがとう、ごめんね。それしか言えなかった。

 

物事が変化するのはいつだってその瞬間だ。時間が用意されていると思うことのほうが間違いで、だからこそ一瞬一瞬を丁寧に大切に生きていかないといけない。

私は一瞬を大切にできていたかな。できていなかっただろうな。だって後悔しかない。もっと大切にしたかった。

犬は賢くて気高くて美しかった。生まれ変わりがあるとしたら、今度は自由に生きてほしい。心からそう願う。f:id:hoshigakikun:20210925151720j:image

ジュンベリーが大好きだった犬。来年は一緒に食べられない。散歩にも行けない。「おかえり」って駆け寄ってきてくれない。

もうどこにもいない。

夜に火葬すると言っていたが、今頃はもう燃えてしまったのだろうか。本当はいつまでも一緒にいたかった。生きていてほしかった。

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