米粒のような独り言

アラサーオタク女性の独り言です。文章とお絵描きが好きです。おにぎりボウズくんというオリジナルキャラクターを描いて楽しんでいます。※無断転載などご遠慮ください。

遠き山に日は落ちて

こんばんは、おにぎり成です。
今年もよろしくお願いいたします。


年が明けた朝。
私は眠気眼を擦りながら「あけましておめでとう」よりも先に「ヒカキン、結婚したな…」と父に呟く。父は「ヒカ…キン!?」と明らかに聞き慣れていない言葉を聞いたときのように新鮮な反応を示す。そんな父に私は続けて「あと、ビズリーチの人も…」と付け加えながら、父が作ってくれたお雑煮に手を付けた。
父に餅を2個食べると伝えたけど2個だと物足りないな〜と思って食べていると「餅は2個半にしといたぞ」と言われて「気が利くやんけ」と偉そうに返事をした。

お雑煮を食べ終えてポケモンをやっていると、父が「神社に行くついでに散歩してくる」と言って出掛けた。
それから父は12時を過ぎても15時を帰ってこなかったので、どこに行ったのだろうと疑問に感じながら、私も夜ご飯までに帰るつもりで散歩に出掛けた。

初詣のために近所の神社に行ったあと、光が落ち着いてきた空を眺めながらぼんやり歩く。家が建ち並ぶ小道は正月のばあちゃんちの匂いがする。あたたかくてホッとする懐かしい匂いだ。

「とーおきーやーまにーひーはおーちてー…」夕焼けのチャイムが流れ始めたので、私は子どものように家路を急ぐ。

家を出たときにはまだ明るかったのに、すっかり日が暮れてしまった。道中、父には一応「あと20分くらいで着くよ」と連絡した。人に心配をかけないのが大人の嗜みというものだ。
すぐに父から「オツケイ、飲んてるよ〜」と返事が返ってきた。父は普段からOKのことをなぜかオツケイと言うのでそれは気にならなかったのだが「飲んてるよ」という言葉には違和感を覚えた。誤字にも気付かないほど飲んでいるのか?散歩中どこかに寄って飲んできたのか?でも元旦に空いている店なんて少ないと思うが…。
不審に思いながらも夜はおせちとカニを食べる予定なので「先に家で飲んでいるよという意味だろう」と思って私は足早に帰った。

外から見る我が家はなぜか人気が無く、なんだか様子がおかしい。私は慌てて家のなかに入ったが、部屋はどこもかしこもシーン…としていた。もう夜ご飯の時間だというのに父がいないのだ。
私は父に「どこにいる?」とラインをしたが返事がなかった。電話を何回もかけたが応答がない。おせちのことを忘れて飲みに行ってしまったのだろうか?いや、父は今日おせちを食べることに対して本気だった。ということはなにかあったのか?事件に巻き込まれたとか?あのラインは確かに異変を感じた。
私は大晦日Netflixで観た「スマホを落としただけなのに」が頭を過った。もしかしてあのラインは誰かのなりすましか!?
いやさすがにそれはないなと思い直す。それならばもしかして散歩中に飲みに行って酔い過ぎて川かドブに落ちたとか?もしくは道で寝てたりするのか!?それはおせちを忘れて飲みに行くことよりも大いに有り得ることだ。

モヤモヤしたままテレビを付けると、頭が真っ白になるようなニュースが流れている。当たり前の日常が当たり前ではなくなる瞬間。大切な人がいなくなるあの感覚。
テレビを見た私は居ても立っても居られなくて、家を飛び出して車で捜索を始めた。元旦に空いている居酒屋を覗き、父が行きつけだという居酒屋に行った。どこの居酒屋にもいないし、行きつけの店は全て閉まっていた。
私は駅から家までの道を何往復もしたり、川を見てドブを見たが、父はどこにもいない。その間に何度も電話をしたが相変わらずなにも反応がない。

電車で都会まで飲みに行った可能性もある。きっとそんな感じだと思うが、私は念の為に兄嫁の実家で過ごす兄に電話をした。
兄に事情を話すと「ちょっとおかしいかもな」と言うので、私はまたしても外に飛び出した。捜索時間は2時間半。父の気配はどこにもない。

どこにもいないので「川やドブにいなければそこまで心配することもないだろう」と自分を落ち着かせて家に帰ることにした。今できることは全てやり切ったつもりだ。お腹が空いたし疲れた…。

その1時間後。苦しい気持ちでニュースを見ていると、父からやっと折り返しの電話がきた。どうやらふらっと立ち寄った友達の家で飲んで、酔ってそのまま家で寝てしまったらしい。私は「父に近場の友達なんていたんか」という気持ちと、怒りと安堵の気持ちがふつふつと込み上げてきた。許せないけど、何事もなくて良かった。

私はそんな感じで終わったが、被災地の方々は今も眠れない日々を過ごしている。苦しくて言葉にできないまま昨日を終えた。


今日は兄夫婦が泊まりに来る日であった。昨日食べる予定だったおせちを今日食べたおかげで、夜ご飯の買い出しに行かなくて済んだ。ちなみに写真手前のブツは牛タンである。

妊娠中の兄嫁があと1週間で安定期に入るようだ。私たち家族はみんな口を揃えて「楽しみだ」と騒いだ。兄嫁の父は泣いて喜んだらしい。子どもは幸福そのものだ。全身全霊で可愛がろう。


私は初詣のときはいつも、家族と幼なじみと捻くれ者の友人と自分の無事を祈る。私は信仰心が強いわけではないが、自らの力ではどうにもならない物事に対しては祈るしかないと思っている。
今年も祈りの心を胸の片隅に。
ではまた。

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